ある場所を触ると、離れた場所がくすぐったくなるのはなぜ?

体のある場所を触ったときに、まったく別の離れた場所がくすぐったくなったり、かゆくなったりすることがあります。たとえば、左のこめかみを触ると左の腰がくすぐったくなる、ある場所を触ると背中がくすぐったくなる、といった現象です。

一見すると不思議に感じますが、この現象には「ミテンプフィンドゥング(Mitempfindung)」という名前があります。多くの場合は病気ではなく、健康な人にもみられる感覚の個人差のひとつです。

はじめに

ある場所を触ったときに、離れた別の場所にもくすぐったさやかゆみが出ることがあります。

原因としては、例えば側頭部からの感覚信号と、腰部からの感覚信号が、脊髄の中で近い回路として処理されることがあるためだと考えられています。そのため、実際には側頭部を触っているだけでも、その信号の一部が腰からの刺激のように扱われ、脳が「腰にも刺激がある」と認識することがあります。

電話線が少し混線して、別の会話が聞こえるようなイメージです。多くの場合は体の正常な反応の範囲であり、すぐに消える軽い感覚であれば心配はいりません。

また、この感覚が出るルートは、東洋医学の経絡や筋膜のラインと似て見えることがあります。ただし、これは完全に証明されたものではなく、神経、筋膜、経絡のあいだに一定の対応関係がある可能性として理解するとよいでしょう。

ミテンプフィンドゥングとは何か

ミテンプフィンドゥングとは、体のある場所を触ったり掻いたりしたときに、離れた別の場所にも、くすぐったさ、かゆみ、チクチク感、ピリピリ感、むずむず感などが出る現象です。

この言葉は、ドイツ語の「mit(一緒に)」と「Empfindung(感覚)」からできています。つまり、「一緒に起こる感覚・共感覚」という意味です。

たとえば、こめかみを触ると腰に感覚が出る、腕を触ると背中に感覚が出る、といった反応がこれにあたります。

どれくらいの人に起こるのか

  • 健康な人にもみられる感覚現象です

  • 報告によっては、健康な人の10〜25%程度にみられるとされています

  • 共感覚を持つ人では、より多くみられる可能性があります

  • 多くの場合、病気ではなく体の感覚の個人差です

  • ただし、急に出てきた場合や、痛み・しびれを伴う場合は注意が必要です

この現象の特徴

  • ある場所を触ると、離れた場所にも感覚が出ます

  • 多くの場合、体の同じ側で起こります

  • くすぐったさ、かゆみ、チクチク感、ピリピリ感として感じることがあります

  • 刺激している間だけ出て、刺激をやめると消えることが多いです

  • 同じ人では、比較的一定のパターンで起こることがあります

  • どこからどこへ感覚が出るかは、人によって異なります

なぜ離れた場所に感覚が出るのか

脊髄で感覚情報が合流するため

もっとも有力な説明は、脊髄の中で感覚情報が一部合流するというものです。

皮膚を触ると、その情報は神経を通って脊髄に入り、そこから脳へ伝わります。脊髄には、いろいろな場所からの感覚をまとめて受け取る神経細胞があります。そのため、ある場所から来た信号と、別の場所から来る信号が近い回路で処理されると、脳が感覚の場所を少し取り違えることがあります。

たとえば、左のこめかみを触った刺激が、脊髄の中で腰の感覚に関わる回路にも影響すると、脳は「腰にも何か触れた」と判断することがあります。その結果、左の腰がくすぐったく感じられるのです。

これは、電話線の混線に似ています。本来はこめかみから来た信号なのに、その一部が腰の感覚を扱う回路にも影響する、というイメージです。

関連痛に近いしくみ

ミテンプフィンドゥングは、医学でいう「関連痛」に近いしくみで説明されることがあります。

関連痛とは、実際に刺激や異常がある場所とは別の場所に痛みを感じる現象です。たとえば、内臓の異常で肩や背中に痛みを感じることがあります。これは、脊髄の中で複数の場所からの感覚情報が合流するために起こると考えられています。

ミテンプフィンドゥングは、痛みではなく、くすぐったさやかゆみとして現れる点が特徴です。そのため、「関連痛の感覚版」と考えると理解しやすくなります。

脳の感覚地図が関係する可能性

脳には、体のどこを触られているかを感じるための体性感覚野という場所があります。ここには、体の各部位に対応した地図のような配置があります。

この地図の中で、ある部位と別の部位が近くで処理されている場合、信号が隣の領域に影響する可能性があります。その結果、実際に触られた場所とは違う場所にも感覚が出ることがあります。

ただし、ミテンプフィンドゥングの主な原因が脊髄にあるのか、脳にあるのかは、まだ完全には解明されていません。

皮膚や筋膜との関係

皮膚の中で信号が広がるという仮説

皮膚には、痛みやかゆみを伝える細い神経があります。ある仮説では、皮膚の中でこれらの神経がリレーのように反応し、離れた場所にかゆみやくすぐったさが出る可能性があると考えられています。

この考え方は興味深いものですが、まだ研究の数は多くありません。現時点では、確実に証明されたしくみというより、仮説のひとつとして考える必要があります。

筋膜のラインとの関係

筋膜とは、筋肉や内臓を包み、体全体につながっている薄い膜のことです。筋膜には、圧や引っぱりを感じるセンサーが多く存在します。

こめかみ、首の横、脇腹、腰の外側をつなぐような体のラインは、筋膜のつながりとして説明されることがあります。そのため、ある場所への刺激が筋膜の張りを通じて、離れた場所の感覚に影響する可能性も考えられます。

ただし、筋膜がこめかみから腰までのくすぐったさを直接伝えていると証明されたわけではありません。現時点では、神経のしくみを補足する仮説のひとつとして理解するのが適切です。

東洋医学の経絡との関係

ミテンプフィンドゥングで感覚が出るルートが、東洋医学の経絡と似ていると報告した研究があります。

たとえば、こめかみから体の横を通り、腰や脚の外側へ向かう流れは、東洋医学でいう足少陽胆経の流れと一部重なって見えることがあります。

しかし、これは「経絡が現代医学で完全に証明された」という意味ではありません。より正確には、神経、筋膜、経絡として説明されてきた体のラインの間に、一定の対応関係がある可能性が示されている、というのが適切です。

左のこめかみを触ると左の腰がくすぐったくなる理由

左のこめかみを触ると左の腰がくすぐったくなる場合、いくつかの要素が重なっている可能性があります。

  • こめかみの感覚と腰の感覚が、脊髄や脳の中で近い回路に関係している可能性があります

  • 体の同じ側で感覚が出るという、ミテンプフィンドゥングの特徴に合っています

  • こめかみから首、体の横、腰へ向かう筋膜のラインと重なる可能性があります

  • 東洋医学の経絡で説明される体の流れと、一部似たパターンを示す可能性があります

つまり、この現象は「神経の信号が脊髄や脳で一部重なって処理されること」を中心に考えると理解しやすくなります。そのうえで、筋膜や経絡との対応関係が重なって見える可能性があります。

似ている現象との違い

関連痛

関連痛は、内臓や筋肉などの痛みが、離れた別の場所に出る現象です。ミテンプフィンドゥングは、痛みではなく、くすぐったさやかゆみとして出る点が違います。

アロクネシス

アロクネシスは、普通ならかゆくない軽い刺激でかゆみが出る現象です。感覚の質が変わる現象であり、離れた場所に感覚が出るミテンプフィンドゥングとは異なります。

アロエステジア

アロエステジアは、触られた場所とは反対側に感覚が出る現象です。ミテンプフィンドゥングは、同じ側に出ることが多い点が特徴です。

シンキリア

シンキリアは、片側を触ると左右両方の同じ場所に感覚が出る現象です。ミテンプフィンドゥングは、左右対称ではなく、離れた別の場所に感覚が出る点が異なります。

鍼灸の得気

鍼灸でいう得気とは、鍼を刺したときに、重い感じ、響く感じ、ジーンと広がる感じが出る現象です。ミテンプフィンドゥングも離れた場所に感覚が広がる点では似ていますが、刺激の深さや感覚の質は異なります。

鍼灸の得気とのつながり

ミテンプフィンドゥングと鍼灸の得気には、いくつか似ている点があります。どちらも、離れた場所に感覚が広がることがあり、人によって感じ方に差があります。また、細い神経線維や脊髄での情報処理が関係している可能性があります。

一方で、両者は同じものではありません。得気は鍼による深い刺激で起こり、重だるさや響きとして感じられることが多い現象です。ミテンプフィンドゥングは、皮膚の表面を触ったり掻いたりしたときに、自然にくすぐったさやかゆみとして出る現象です。

そのため、両者は「脊髄の中で感覚情報が合流する」という共通したしくみを一部共有している可能性があります。ただし、経絡の正体をそのまま脊髄の神経回路と断定することはできません。

病気ではないのか

ミテンプフィンドゥングは、多くの場合、病気ではありません。健康な人にもみられる感覚の個人差のひとつです。

昔から同じように起こっていて、感覚がすぐに消え、痛みやしびれを伴わない場合は、過度に心配する必要はありません。

ただし、次のような場合は、神経の状態が変化している可能性もあるため、医療機関で相談することがすすめられます。

  • 以前はなかったのに、急に出るようになった

  • 感覚が強く、長く続く

  • 痛み、しびれ、脱力を伴う

  • 感覚の範囲が急に広がっている

  • 多発性硬化症など、神経の病気を指摘されている

それぞれの説の根拠の強さ

ミテンプフィンドゥングが実際にあること

いくつもの研究で観察されているため、現象そのものの存在には一定の根拠があります。

脊髄で感覚情報が合流する説

関連痛のしくみと共通点があり、現在もっとも説明しやすい説のひとつです。根拠は比較的強いと考えられます。

脳の中で信号が影響し合う説

共感覚や脳の感覚地図に関する研究から、間接的な根拠があります。ただし、ミテンプフィンドゥングをすべて説明できるわけではありません。

筋膜のラインで伝わる説

筋膜は解剖学的につながっていますが、それが離れた場所のくすぐったさを直接起こすという証拠はまだ十分ではありません。

皮膚のリレーと経絡の説

興味深い仮説ですが、研究の数は限られています。現時点では、可能性のひとつとして扱うのが適切です。

神経が敏感になりすぎている説

慢性的な痛みがある人では、脊髄や脳が刺激に敏感になり、感覚が広がって感じられることがあります。ただし、健康な人にみられるミテンプフィンドゥングとは分けて考える必要があります。

まとめ

ある場所を触ると離れた場所がくすぐったくなる現象は、ミテンプフィンドゥングと呼ばれます。ドイツ語で「一緒に起こる感覚」という意味があり、ある場所への刺激と同時に、離れた別の場所にも感覚が生じる現象を指します。

健康な方にもみられる体の個性であり、多くの場合は心配いりません。

現在もっとも有力と考えられている説明は、脊髄の中で感覚情報が一部合流し、脳が「別の場所にも刺激がある」と受け取ってしまうというものです。わかりやすく言えば、神経の信号が少しだけ混線するようなイメージです。

えん鍼灸院では、こうした体の不思議な反応も丁寧にお聞きし、お一人おひとりの体の状態を総合的に把握したうえで施術を行っています。「こんなこと聞いていいのかな」ということでも、お気軽にお声がけください。

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